名無しの拙作 第3作目 第12話:別れと約束

「僕たちも結婚を考えているんです。お二人のような夫婦を目指そうと、この取材を通して話していました」
山下がそう告げると、女将は目を丸くし、次の瞬間には満面の笑みになった。
「本当に? 嬉しい! おめでとう! 絶対に結婚式に呼んでね!」
「ぜひ来てください! 仲人もお願いしたいです!」
水島も続け、山下も「お願いします!」と頭を下げた。
店主は涙をこぼしながら言った。
「必ず行くから、呼んでくれよ!」
女将が「アンタ、二人にちゃんとお礼を言いなさいよ!」と促すと、店主は立ち上がり、深々と礼をした。
女将は泣き笑いの表情で言う。
「何をかしこまっているのよ!」
店主は声を震わせながら続けた。
「最初はどうなるかと思ったけど、二人がしっかり仕事してくれて、俺たちも信頼するようになって……娘が生きていたら、こんなふうに……」
言葉の途中で声が詰まり、大声で泣き出した。
「娘も美夏ちゃんみたいな子で、結婚相手が山下君みたいな男で……きっと店を一緒にやってくれたんだろうなと思うと……」
再び涙があふれ、店主は顔を覆った。
その後も涙声で続ける。
「二人と仕事をして、家族みたいに感じて楽しかった。別れが名残惜しい……
明日から二人がいないと思うと寂しい。俺の口の悪さにも嫌な顔をしないで、本当に助かった。ありがとう!」
また号泣し、肩を震わせた。
女将が冗談めかして言う。
「鬼の目にも涙じゃなくて鼻水かい?」
その一言に、三人は思わず笑いに包まれた。
山下が深く頭を下げる。
「大変にお世話になりました!」
水島も涙を拭いながら言った。
「またお会いしたいです!」
女将は明るい声で応える。
「また会いましょうね。いつでも遊びに来てくださいね」
店主も優しく言葉を添えた。
「お互いに成長した姿でまた会いましょう。楽しみにしているから」
そして、静かに夜が更けていった。
- 了 -